Strategy& SDV（Software Defined Vehicle）による自動車業界革命

日本が推進する「多様なSDV」実現に向けて本レポートでは、Strategy&の欧州チームが米国・中国チームとともに主に欧州自動車産業におけるSDV（Software DefinedVehicle）化に向けた課題と対応策をシナリオに基づく定量的な市場性とともに論じています。Strategy&の日本の自動車チームでは、2024年2月に「自動車産業の岐路となるSDV化ービジネスモデル・リインベンションに挑む次の10年ー」というレポートを発行しました。ここではSDV化を目指す上で、DXやAIを活用した「既存事業の深化」と「新規事業の探索」を同時に進める「両利き」の経営に加え、SDV時代に適応するための「既存事業の再創造」を図る「三刀流」の舵取りが必要であることを提言しています。経済産業省が2024年5月に発表した「モビリティDX戦略」や、24年度も推進している「モビリティDX検討会」では、日本が目指す「多様なSDV」を示しています。国際競争力を高めるための協調領域の議論も活発化している中、各社では、グローバルの競争・日本国内の協調を踏まえた、「SDVへの適合戦略・変革」が待ったなしで求められつつあります。本レポートで提示するSDV化に向けた産業主導者のシナリオ（OEM／Tier1／テック企業のいずれが主導するか）や、ビジネスモデル・対応策のパターンが、日本自動車産業における「三刀流」の舵取りや「多様なSDV」を具体化する上での一助になれば幸いです。 PwCコンサルティング合同会社Strategy&ディレクター阿部 健太郎Enterprise Transformationディレクター渡邉 伸一郎同シニアマネージャー糸田 周平 1 Strategy&SDV（Software Defined Vehicle）を起爆剤とした自動車業界の変革1) E/E =電気電子2)バッテリーを除くエグゼクティブサマリー欧州のOEMはSDV分野のケイパビリティの拡張に取り組んでおり、域内のエコシステムの拡大を今後も進めていくとみられる。中国市場ではテクノロジー企業がSDV化を牽引しており、伝統的なバリューチェーンおよび提供価値の見直しが進みつつある。3SDV化による変革を実現するためには、OEMとサプライヤーは市場での戦い方や経営モデルを見直す必要がある。さらにSDV化がもたらす成長の機会を100％生かすには、組織、プロセス、ガバナンス、人材、文化、ツールといった側面での大きなギャップを埋めなければならない。5効果的な協業（特にテクノロジー企業との協業）は、OEMとサプライヤーが新たな戦略の中で標準化を推し進めて規模の経済を生み出し、独自のイノベーションで競合他社との差別化を図る上で不可欠な取り組みとなってくる。6SDV化には、ハードウェアとソフトウェアの分離（デカップリング）、アーキテクチャドリブンのプラットフォーム構築、E/E1)アーキテクチャの集中化という特徴がある。完全なSDV化を実現しているOEMはまだ存在せず、現在のところ中国と米国のプレーヤーがSDV化を主導している。1SDV化は、自動車業界のバリュープールの再編につながる。ソフトウェア開発、E/E開発、E/Eコンポーネント供給2)のグローバルにおける市場規模のCAGR（年平均成長率）は2025年から2035年にかけて最大5％と、業界平均を上回る見通し。2欧州のOEMでは、市場規模の拡大と協業を生かした、より収益性に優れたバリュープールへの移行によって、2035年までに200億ユーロの収益増が見込まれる。ただし、これらの変革プロセスが停滞すれば、この収益増の実現は困難になる。4SDV（Software Defined Vehicle）による自動車業界革命―欧州自動車産業視点での生き残り策― 2024年11月 Strategy&SDV（Software Defined Vehicle）とは、デジタル技術によって高度に制御される自動車のことを指す。SDVでは、運転、車内エンターテインメント、通信、安全性、快適性といった全ての機能がソフトウェアによって実現され、管理、制御、カスタマイズされる。SDVはクラウドに接続され、周囲の環境とデジタルで相互にやりとりする。新たな機能はハードウェアを交換することなく、無線通信によって継続的にアップデートされる。つまり、ソフトウェアによって機能が更新されることを前提に開発・設計された自動車とも言える。SDV化の進展によって、ソフトウェアの開発・運用がハードウェアの制約から切り離されて拡張性が向上し、開発時間が短縮されるほか、デジタルエコシステムとの統合も実現する。また、SDVは自動車だけに閉じた概念ではなく、ソフトウェアを基軸にモビリティの内と外をつなぎ、機能を更新し続けることでユーザーに新たな価値や体験を提供し続けるための基盤（エコシステム）とも解釈できる。SDVとは何か？SDV（Software Defined Vehicle）による自動車業界革命―欧州自動車産業視点での生き残り策― Strategy&2024年11月SDV化は、顧客にさまざまなメリットをもたらすだけではなく、OEMが競争優位性を維持する上でも不可欠1) OTA = Over The Air、無線通信によるデータの送受信2) V2X = Vehicle to Xの略。車両と外部サービスなどとの通信や連携を行う技術3)スウォームインテリジェンスとは、分散化された自己組織化システムの集団行動に基づいた人工知能技術SDVのメリットOEMへのメリット顧客へのメリットコストの削減•1回限りの開発および評価によるコスト削減•OTA1)経由の機能アップデートが可能になり、ワランティコストが削減される•専用のハードウェアを用意する必要性が低くなる市場投入時間の短縮•並行／反復的な開発サイクルによる時間の短縮•仮想環境下での迅速なプロトタイピング／テスト•ソフトウェアとハードウェアの統合が容易ビジネスモデルの差別化•サブスクリプションサービスや従量課金制•OTA経由の機能アップデートによる継続的な収入•機能ごとの独自の価格設定性能の向上•データを活用した性能改善•センサーデータを活用した知能化された制御•AIベースのサービスアップグレードとフレキシビリティの向上•OTA経由で機能がアップグレードされ、ハードウェアに変更を加える必要がない•リモートでのメンテナンスと修理が可能•ユーザーのニーズと法規要件に応じた構成が可能先進的なユーザーエクスペリエンス•ブランドやユーザーの選好に応じたカスタマイズ•スマートフォンのようなインターフェース•最新のユーザーエクスペリエンス（UX）エコシステムの統合•複数のエコシステムとの容易な統合が可能•サードパーティアプリの利用が可能•サプライヤーとの協働が容易安全性とセキュリティの向上•安全性を支える高度な機能•V2X2)によるデータ交換とスウォームインテリジェンス3)•リモートからの車両制御、盗難防止SDV（Software Defined Vehicle）による自動車業界革命―欧州自動車産業視点での生き残り策― Strategy&2024年11月技術とアーキテクチャの進化で自動車業界のバリューチェーンに破壊的変化が起こり、各プレーヤーは市場での戦い方や経営モデルの見直しを迫られる1) PLM =製品ライフサイクル管理2) IP =知的財産SDV化が破壊的変化をもたらす領域5•自動車業界の外部から新たなサービスを提供するプレーヤーが参入し、OEMとの直接的な競争が起こる•プラットフォーム上でのイノベーションの共創、協働、レベニューシェアリングなどにより、製品の複雑性を解消•取引上の新たな戦略•新たな協業、協働、オープンイノベーション戦略•競争法戦略•公的インセンティブ／資金調達戦略•移転価格／税／関税戦略バリューチェーンと新たな業界プレーヤー•組織、ガバナンス、プロセス、人材、文化の見直し•継続的かつ大規模な開発、統合的なツールチェーンを利用した認証•ITおよびシステム戦略（例：ツールチェーン／PLM1)、デジタルツイン）•IP2)管理•HR／働き方改革経営モデル•提供価値とビジネスモデルを見直し、激化する競争環境に対応•新たなバリューチェーン内で市場での戦い方を見直すことにより（例：内製、協業）、ビジネススピードが高まる•提供価値•独自性のあるオファー•市場アプローチ•競争優位性•モダナイゼーション戦略市場での戦い方概要•ソフトウェアベースの機能の誕生、コンピューティングの集中化（例：ADAS）•製品ライフサイクルの延長、OTAアップデートやクラウドサービスを用いたコネクティビティ（例：新たなインフォテインメントソフトウェア）課題•ソフトウェア開発•レガシー技術の扱い•システム統合•業界を横断したインターフェースの標準化•半導体の性能•サイバーセキュリティ対策製品の技術とアーキテクチャSDV（Software Defined Vehicle）による自動車業界革命―欧州自動車産業視点での生き残り策― Strategy&2024年11月SDVには、レイヤー化されたソフトウェア／ハードウェアのアーキテクチャが必要。これによりハードウェアと切り離したソフトウェア開発／運用が可能に標準インターフェース経由のアクセス1) UX =ユーザーエクスペリエンス2) OS =オペレーティングシステム3) ADAS/AD =先進運転支援システム4) API =アプリケーション・プログラミング・インターフェースSDVアーキテクチャスタック（概略図）開発／テスト環境、エンドツーエンドのツールチェーンデジタルなライフサイクル管理（継続的な統合を含む）安全性およびセキュリティ管理SDVアーキテクチャのハイライト•車内コンポーネントとクラウドコンポーネントの両方を含む•ハードウェアとソフトウェアを分離することで、スピーディなアップデート、ハードウェアに依存しないソフトウェア運用が実現•分離はハイパースケーラーで用いられるようなレイヤー化されたアーキテクチャによって実現•他のプレーヤーとの協働によるソフトウェアのモジュラー開発が可能•レイヤーを横断して基盤サービスを組み合わせることで、アプリケーションや機能を開発できる•標準API4)を用いて、レイヤー内、またはレイヤーを横断してサービスを利用できるモビリティエコシステムインフォテインメントとボディコネクティビティアップデート管理ADAS/AD3)動力・エネルギードメイン拡張サービスとデータ基礎的サービスとOS2)センサ／アクチュエータゾーンと通信ソフトウェアレイヤー車内レイヤー車両、一般的な拡張サービス、データアプリケーションとUX基礎的サービスとクラウドOSクラウドレイヤーコンピューティングデータセンターサービスバックエンドドメイン通信インフラ環境センシングアプリケーションとUX1)SDV（Software Defined Vehicle）による自動車業界革命―欧州自動車産業視点での生き残り策―ソフトウェアレイヤーハードウェア&E/Eレイヤーサポート 6 Strategy&OEMはE/Eのアーキテクチャについて、従来の事業と協業をベースに、ドメイン型にするかゾーン型にするかを決定しなければならないハードウェアとE/Eを集中化したアーキテクチャの選択肢ZCU6)ZCUの機能を分離車両コンピュータ（VC）車両とクラウドコンピューティングユニット全てのZCUをVCに統合ECU4)の統合無しECUの統合有りDCU5)DCUの機能を分離全てのDCUをVCに統合分散型E/Eアーキテクチャ現在のドメイン（ゾーン）またはクロスドメイン（ゾーン）を集中化させたE/Eアーキテクチャ将来の車両に集中化させ、車両クラウドコンピューティングを採用したE/Eアーキテクチャ単一のパス並列パス単一のパス車両コンピュータクラウドコンピューティングプラット